紅花染め
昔と変わらぬ技法で作られる天然の紅色
紅花染めとは
紅花染め(べにばなそめ)とは、紅花という花から採取される色素を使って染色をする技法です。紅花という名の通り、赤色の色素を抽出することができ、紅花から作られた赤色は紅赤と呼ばれ、日本の伝統色として長い間愛されてきました。イスラエル付近が起源とされ、シルクロードをたどって、日本までやってきたと伝えられている紅花。山形県では室町時代から紅花栽培がはじまり、風土や運搬方法が適していたことから、江戸時代には一大産地となりました。
"行く末は 誰が肌ふれむ 紅の花"
松尾芭蕉の俳句です。山形で紅花摘みをする女性たちの「私が摘んでいる紅花は、将来誰の肌に触れるのだろう」と、都会の華やかな生活に思いをはせる心を詠んだ俳句です。当時、紅花を使った衣類や口紅は高級で庶民の憧れでした。
紅花から赤色をつくる工程は、まずは紅花摘みから始まります。紅花摘みは、日が登り始める早朝からひとつひとつ手で花を摘みます。紅花の葉には棘があり、朝露に濡れている状態のほうが棘が柔らかく刺さりにくいためです。
紅餅づくり、そして染め
収穫された黄色い紅花はそのままでは紅色は出ません。”紅餅”と呼ばれる紅花から黄色い色素を洗い流し、紅の色素だけ残して花びらを発酵後、乾燥させたものを作ります。
紅餅を使って染めるときれいに染まりやすいだけでなく、紅花を乾燥させることで保存期間を長くすることができ、車や電車のない時代に山形から東京や京都などに運ぶのに便利でした。
守られる伝統色と紅花のある風景
夏の間に紅餅を作り、染色は冬の寒い時期に行われることが多いです。
理由は気温が低いほうが色が出やすく、綺麗に染まるからです。
紅餅で染まる色は、一度染めだと淡いピンク色に、6~8回で紅色になります。
貴族の着る濃い韓紅(からくれない)の衣服は実に12回も染めを繰り返したそうです。
染物は、かつては紅花だけでなく、自然の花や実や根などで染められていました。
現在では、化学染料の普及により、自然のものを使った染め物は少なくなっています。
山形県では今でも昔と変わらぬ方法で紅餅を栽培し、日本の伝統色を守り続けています。